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監修:東静脳神経センター
順天堂大学医学部附属 順天堂醫院脳神経内科 
横山 和正 先生

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NPO法人日本視神経脊髄炎患者会(NMOJ)は、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)の患者さんやそのご家族が、専門家から正しい情報を学び、相互交流するイベントを各地で開催しています。
アレクシオンファーマは、8月31日に新潟で開催されたイベントで、新潟大学の河内泉先生によるセミナーを共催しました。当日のセミナーの内容についてご紹介します。 2024年8月31日 11:00~13:15
富士通 Niigata Hubにて開催

河内 泉 先生

新潟大学大学院 医歯学総合研究科医学教育センター 新潟大学医歯学総合病院脳神経内科 准教授

NMOSDの治療方針の立て方∼SDM (shared decision making)∼

日本の社会・医療に求められることとして、次の3つが挙げられます。 これらはNMOSDの治療方針にも関わることです。

SDM(医療者ー患者の双方向での治療決定)を実践する

治療方針を決めるための代表的なアプローチとして、昔は医療者側の一方的な決定が主でしたが、現在はShared approach(医療者からの情報とともに、患者さんからの情報を含め、患者さんのニーズに基づき、話し合いを重ねて協働で意思決定をする)1)に変わりつつあります。このアプローチは、患者さん一人ひとりの嗜好と行動をより尊重し、医療者はエビデンスを伝えながら治療方針を決定していく方法で、医療者と患者さん・ご家族が何度も話し合って決めていくことがとても重要です。

患者さんの長い人生に寄り添う

治療は、患者さんの長い人生の中で “重視する部分” に沿って進めていくことも大切です。“重視する部分” は患者さんの年齢や状況などによって一人ひとり異なります。患者さんご自身が「これからどんな人生を歩んでいきたいのか」を考えて、それを踏まえて最適な治療法を選択していくとよいでしょう。ぜひ、数十年先までの人生をデザインしながら治療を考えてみてください。

Equity(公平・公正)を目指す

「平等」と「公平・公正」には違いがあります。たとえば、「全員に同じように道具を提供する」という「平等」では、障害を持つ患者さんにとって生きにくい社会です。それぞれの体の状態に合った道具を使うことが「公平・公正」です。社会は「平等」ではなく、「公平・公正」を目指す必要があると思います。

NMOSDの就労両立支援

難病を持つ方も就労できるように、国はサポート体制を作っています2)。就労両立支援はたくさんあって複雑なため、就労のことで悩んでいる方はぜひ一度、各都道府県の難病支援センターに行ってみてください。専門知識を持った人がその方に合った就労のサポートをしてくれます。
日本では未だに、難病や障害を持っていると、早期退職したり、就労を諦めたりせざるを得ない患者さんが多いのも事実です。しかし、それを変えていこうという時代になっています。病気によって仕事がうまく進まない場合には、良い治療をすることで仕事がしやすくなる可能性もありますので、担当医師に相談してみてください。
休職した場合は、担当医師が「職場復帰可能」と判断する基準があります。安全に通勤できるか、仕事中に本人や第三者の安全が確保できるか、病気になる前と同じように働けるかなどを総合的に判断します。なお、治療と仕事の両立に向けた支援は現在、診療報酬の改定が後押しとなって、実際に受けられるような体制づくりが少しずつ進んでいます。
もし、病気に対する周囲の偏見で苦しんでいるのなら、一人で抱え込まず、担当医師や看護師、難病支援センターのスタッフに何でも相談するとよいと思います。患者さん同士で相談し合える機会も大切です。これからは「社会のマインドセット・価値観」を変えていく時代です。

NMOSDの妊娠・出産へのケア

NMOSDと診断されても、治療によって病気の勢いをコントロールできていれば、妊娠・出産・子育てが可能な時代です。ただし、以下のような注意点があります。
妊娠5~12週:薬剤によっては子どもに奇形が出る可能性がある(催奇形性)3)
妊娠13週目以降:薬剤によっては薬が胎盤を介して胎児に移行する(胎児毒性)3)

※生物学的製剤のなかには胎盤が大きくなるほど胎児へ移行しやすい薬剤もある

最も重要なのは、妊娠する前にしっかりと病気の勢いをコントロールすることです。十分な再発予防をしないまま妊娠すると、妊娠中や出産後に再発を起こすことがあります。
さらに、プレコンセプションケア(将来の妊娠を考えながら自分たちの生活や健康に向き合うこと)4)も大切です。①いまの自分を知る(適正体重、運動など)、②生活を整える(栄養、禁煙、禁酒など)、③検査やワクチンを受けるかどうかを相談する、④かかりつけ医としっかりと相談する、⑤人生をデザインする、という5つのアクションを、できるものから行ってみるとよいでしょう。

さいごに

難病を持つ人であっても、仕事・治療・人生を諦める必要がない時代が来ています。
「社会のしくみ」はほぼ完成しつつありますが、これからは「社会のマインドセット・価値観」を成熟させ、「しくみ」を持続的に運用できる形にしていく必要があります。
ぜひ一緒に、社会の価値観を変えていって、多様性を容認する社会にしていきましょう。


文献

  • Charles C, et al. Soc Sci Med 1999; 49: 651-661.
  • 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター「難病のある人の雇用管理マニュアル」2018年3月
  • Moore KL, et al. Before we are born 9th edition. ELSEVIER, 2015.
  • 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター プレコンセプションケアセンター (https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/preconception/)(2024年10月アクセス)