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監修:東静脳神経センター
順天堂大学医学部附属 順天堂醫院脳神経内科 
横山 和正 先生

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専門ドクターにNMOSDのココが聞きたい!

視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)は極めて稀な病気であり、病気に関連する情報の不足や説明が難しくてわかりにくいといったことから患者さんが不安を抱えることも少なくありません。
こうしたなか、NMOSDに特化した患者団体であるNPO法人 日本視神経脊髄炎患者会メンバーのお2人とNMOSD治療のエキスパートである医師との鼎談が行われました。今回の鼎談では、NMOSDについて患者さんが日々直面する疑問を、専門家である医師にわかりやすくお話しいただきました。 2024年2月10日 アレクシオンファーマ合同会社 本社にて実施

回答者
写真:松下拓也先生

松下拓也先生

高知大学医学部 脳神経内科学教室 教授

質問者
(NPO法人 日本視神経脊髄炎患者会メンバー)
写真:坂井田真実子さん

坂井田真実子さん

2016年にNMOSDを発症。2022年にNPO法人 日本視神経脊髄炎患者会を立ち上げ、現在理事長として患者さんのサポートを行っている。ソプラノ歌手。

写真:渡辺美幸さん

渡辺美幸さん

2010年にNMOSDを発症。治療しながらフルタイムで仕事を続けている。
ディズニーでキャラクターと触れ合うことが趣味。

Question one, 自己免疫疾患って何ですか?


NMOSDはリウマチなどと同じ自己免疫疾患のひとつだと聞きましたが、そもそも自己免疫疾患とはどういう病気なのですか?


私たちの身体には細菌やウイルスなどの異物をブロックする免疫という働きが備わっています。この免疫システムが自分自身の正常な組織や細胞にも反応し、間違って攻撃してしまう病気の総称が「自己免疫疾患」です。そのなかでも、中枢神経系(脳、脊髄、視神経)や末梢神経などで炎症が起こり、神経系が正常に働かなくなるものを「神経免疫疾患」といって、NMOSDのほかに、重症筋無力症、多発性硬化症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎などの病気があります。
また、免疫システムは細菌やウイルスなどの異物 (抗原)
を攻撃する武器である「抗体」をつくり出します。一部の神経免疫疾患では、自分の身体のなかの正常な組織や細胞を異物 (抗原)
と見なして、それを攻撃してしまう抗体ができています。この自己に反応する抗体を「自己抗体」といいます。NMOSDは自己抗体が原因で起こる病気のひとつで、その主な自己抗体が「抗アクアポリン4抗体 (抗AQP4抗体)
」というものです。

Question 1

坂井田さん:

NMOSDは自己免疫疾患のひとつであるシェーグレン症候群を合併することが多いと聞きましたが?

松下先生:

NMOSDではシェーグレン症候群を合併することが多いことが知られています 1) 。シェーグレン症候群は涙や唾液をつくる臓器などに炎症が起こり、目や口などの乾燥を引き起こします。シェーグレン症候群では、骨髄とリンパ節の免疫システムが破綻し、自己抗体が作られやすい環境になっています。その過程で抗AQP4抗体がつくられることがあり、NMOSDと合併しやすいと考えられます。

渡辺さん:

NMOSDにほかの自己免疫疾患が合併することは、それ以外の神経免疫疾患に比べて多いのでしょうか?

松下先生:

比較的多いようです。NMOSDの患者さんは自己抗体をつくりやすい背景があり、そういった方はほかの自己免疫疾患を合併するリスクが高いのではないかと思います。

Question two, NMOSDに関係する用語の意味を教えてください


NMOSDの仕組みを理解するための用語は
AQP4、アストロサイト、補体など難しいものが多いのですが、これらについてわかりやすく教えてください。


NMOSDは主に脳や脊髄、視神経に炎症が起きて障害が生じますが、これらの中枢神経にあって神経に栄養を運んだり、指令を伝えやすくする神経細胞がアストロサイト」です。アストロサイトはたくさんの突起 (足)
を四方八方に伸ばしている形をしていますが、このアストロサイトの足の先にはアクアポリン4 (AQP4)
」と呼ばれる細胞への水の通り道になるタンパク質がたくさんあります。NMOSD患者さんの身体のなかでつくり出された抗AQP4抗体がこのAQP4にくっつくと、免疫システムのひとつである「補体」が攻撃的になります。すると、攻撃的になった補体が炎症を引き起こしたり、アストロサイトの表面に穴をあけて傷つけることで、中枢神経系のさまざまな症状を起こします。

Question 2

渡辺さん:

最初に発症したときは知識が全くなかったので、抗体などいろいろな用語を理解するのが大変でした。

松下先生:

先ほどお話ししたように、NMOSDの原因は敵ではない自分の身体を攻撃する自己抗体ができることです。とくに、AQP4に反応する抗AQP4抗体が見つかったことは診断などに大きく貢献しました。それまではNMOSDと多発性硬化症との区別が難しかったのですが、抗AQP4抗体の有無を調べることでNMOSDと診断できるようになりました。また、抗AQP4抗体がAQP4にくっつくと、補体が活発に働くようになることもわかり、病気の理解が進みました。

渡辺さん:

NMOSDが悪化する原因にも、アストロサイトが壊れることがかかわっているのですか?

松下先生:

脳には有害物質などが入っていかないようにする血液脳関門」という防御システムがあります。これを後ろ側から支えているのがアストロサイトです。アストロサイトが壊されて血液脳関門の働きが悪くなると、脳血管の構造を保つことができなくなります。すると、抗体や補体、炎症を起こす物質などが脳の血管のなかにどんどん入ってしまい、炎症が連続的に広がっていって障害が進み、再発が重くなりやすいのではないかと考えられます。

坂井田さん:

血液脳関門が保たれていれば抗AQP4抗体は脳のなかに入ってこないわけですから、その血液の壁を強くすることができれば悪化や再発を防げるのではないですか?

松下先生:

そういう治療法にも大いに期待したいところですね。血液中の抗AQP4抗体の量にかかわらず、再発しやすい人とそうでない人がいますが、再発しやすい人はたぶん抗体などの物質が血液脳関門を通りやすいのではないかと思います。

Question three, NMOSDは特定の部位で起こるの?


NMOSDは特定の部位で起こるのですか、それともいろいろな部位で起こるのですか?
また同時に起こることもあるのでしょうか?


NMOSDは中枢神経系で起こります。アストロサイトは中枢神経系のあらゆる場所に存在しているので、抗AQP4抗体が陽性ならば、どこで起こっても不思議ではありません。それでも起きやすさには偏りがあり、小脳で起こることは少なく、一方で、脊髄、視神経、脳の最後野という場所は、NMOSDで病変が特徴的に起こりやすい部位です。最後野という場所は血液脳関門がなく、AQP4がたくさん存在します。そのために抗体による障害が起こりやすいのではないかと考えられますが、なぜ起こりやすい場所と起こりにくい場所があるのかについて詳しいことはまだわかっていません。視神経と脊髄など複数の場所で同時に病変が出現することもありえます。

Question 3

坂井田さん:

再発はどの部位で起こりやすいのでしょうか?

松下先生:

再発は最初の発症と同じ部位で起こることが多いといわれています。最初の発症が視神経炎であれば再発も視神経が多く、初回が脊髄炎であれば再発も脊髄が多いといわれています2)

渡辺さん:

再発はいつ起こるのですか?

松下先生:

再発はだいたい最初の発症から1年以内に起こりやすいと報告されています3)
発症して1年以内に、同じ領域で再発することが少なくないようです。おそらく、一度強い炎症を起こしてアストロサイトの破壊が進んでいくと、血液脳関門のバリアが弱くなった状況が続き、同じところから抗体が入って再発するのではないかと思います。
一方で、1年以上再発が抑制されると、血液脳関門の構造が再構築されます。ですから、再発のパターンは、1年以内に発作が集中して起こる群発期 (クラスター期)
では同一部位での再発が多く、発作が長期間起きない間欠期 (非クラスター期)
になると発症部位はランダムになるといわれています。

Question four, 疼痛、歩行障害、排泄障害が起こるのはなぜ?


NMOSDではいろいろな症状が現れますが、疼痛や歩行障害、排泄障害が起こってくるケースもあると聞きました。これはなぜなのですか?


NMOSDで脊髄炎を起こすと、脊髄後角というところが障害されます。後角には痛みなどのすべての感覚が入っていて、ここが破壊されるとコントロールしている領域の感覚がすべて障害を受けます。NMOSDでは後角で強い炎症が続くといわれており、とくに痛みが長く続くことになります。また、大脳から脊髄に続く運動にかかわる神経の通り道が障害されると、運動まひや筋力低下を起こして歩行障害が現れます。さらに、脊髄前角が破壊されると、もっと強いレベルのまひが出ます。膀胱の機能を調節する経路も脊髄のなかにあって、そこが障害されると膀胱の働きが悪くなって排尿障害が出てきます。脊髄は直径1cmほどの神経組織ですが、大事な神経線維がたくさん通っているので、小さな病変でもいろいろな障害を受けてしまうことになります。

Question 4

坂井田さん:

すごく納得しました。私の場合はその後角を障害されたのでひどい痛みが続いているんですね。

松下先生:

多発性硬化症よりもNMOSDの方が強い痛みを伴うケースが多いようです。

渡辺さん:

私は再発して感覚障害が出ました。冷たい洗濯物を温かく感じたり、逆に温かいお風呂に入っているのに冷たく感じたりしました。

松下先生:

触った感じや温度の感覚が鈍くなるケースも少なくありません。しびれや痛みによって熱さがわかりにくくなっていることもあるので、やけどなどにも気をつけてほしいと思います。

Question five, どのような薬があるの?生物学的製剤ってどんな薬?


NMOSDの治療にはどんな薬が使われるのですか?
また、生物学的製剤について教えてください。


再発予防のための治療薬としては、以前からステロイド薬、免疫抑制薬が使われてきましたが、近年は生物学的製剤が用いられることが増えてきました。生物学的製剤はモノクローナル抗体製剤ともいって、特定の分子を標的として人工的につくられた薬剤です。病気のメカニズムがだいぶわかってきたことから、このようにいろいろな分子にピンポイントに働く薬が新しく開発されたのです。NMOSDに使用される製剤には、①抗体、②IL-6、③補体のそれぞれをターゲットにしたものがあり、現在、日本では抗AQP4抗体陽性の人に対して5種類の生物学的製剤が使われています。

Question 5

坂井田さん:

具体的にどのような生物学的製剤があるのでしょうか?また、それぞれどのような働きをもっているのですか?

松下先生:

まず、「抗体」をターゲットにしたものから説明しましょう。NMOSDの原因は自己抗体ですから、その抗体がつくられるのを抑えるコンセプトで開発された薬剤が2種類あります。どちらも自己抗体をつくる免疫細胞の一種であるB細胞に現れるタンパク質を標的にしています。
NMOSDの病気の仕組みに深くかかわるとされる「IL-6」の働きをブロックして、炎症の広がりを抑えようという薬剤もあります。これは血液脳関門を補強する作用もあるといわれています。
もうひとつが「補体」をターゲットにした抗補体薬とも呼ばれる薬剤です。補体が攻撃的になるとアストロサイトを壊すだけでなく、炎症を広げてしまう作用もあります。これをブロックすることで、アストロサイトの破壊を抑えるとともに、連続的に進む炎症を抑えることがわかってきました。

坂井田さん:

生物学的製剤は再発予防のためのお薬だと思うのですが、ほかの治療薬に比べるとまだ新しい薬剤ということもあり、その位置づけをどのように考えればよいのか教えてください。

松下先生:

生物学的製剤は炎症が起こり、拡大していくポイントをブロックする意味合いの強い薬剤です。

渡辺さん:

炎症を抑えるのは、イコール再発を抑えるということですね?

松下先生:

NMOSDは再発によって障害が重症化していくので、炎症を抑えて再発を予防することが治療のいちばんの目的になります。

坂井田さん:

ほかに生物学的製剤を使うことのメリットは何かありますか?

松下先生:

以前から再発予防のためにステロイド薬が使われてきましたが、十分な効果を得るにはたくさん投与することが必要です。でも、ステロイド薬を使いすぎると骨粗鬆症や感染症といった副作用の問題があります。NMOSDは女性に多い病気であり、女性はただでさえ骨粗鬆症のリスクが高く、転倒による骨折なども問題になります。生物学的製剤を使って、なるべくステロイド薬の使用は避けるというのが現在の治療方針の主流になっています1)

Question six, 治療すればNMOSDは治る?薬はずっと続けなければいけないの?


私は長く治療を続けていますが、そもそも治療すればNMOSDは治るのでしょうか?
薬はずっと継続しなければいけないのですか?


NMOSDの主な治療目標は再発予防です。現段階では病気そのものを完全に治す治療法はありません。そして、再発予防のためには治療を継続する必要があります。NMOSDは再発をくり返しやすく、また再発するごとに障害が積み重なっていきます。ですから、治療を続けることで、長期にわたって安定した状態を保っていくことが何よりも大切になります。

Question 6

坂井田さん:

現在のNMOSDの治療はどのくらいのレベルまで進んでいるのでしょうか?

松下先生:

再発予防という意味では、生物学的製剤など新たな薬剤もあり、効果の高いものが出てきています。また、ステロイド薬の中止を検討できる可能性もあります。

坂井田さん:

では、未来は明るいと考えていいのですか?

松下先生:

そうですね。以前はステロイド薬と免疫抑制薬だけではどうしてもコントロールに限界がありました。それを考えると、再発を抑える効果が期待できる薬剤が利用可能になったことは大きなことだと思います。

Question seven, 担当医との定期診察のほかに、どのように病気を管理していけばいいの?


治療を続けていく上で当然ながら定期的に担当医の診察を受けることは必要だと思いますが、ほかにどのように病気をコントロールしていけばいいのでしょうか?


まずは、感染予防が大切です。そして、温めると痛みが強くなる傾向があるので、あまり温めすぎないことや暖房の設定温度を下げるといったことを心がけましょう。体温の上昇に伴って神経症状が現れたり悪化したりする「ウートフ現象」にも注意が必要です。ウートフ現象は基本的に一過性のもので、症状が悪化しても再発とは判断しませんが、症状が24時間を超えた場合は受診してください。また、喫煙は再発したときの症状を悪化させるので控えたほうがいいと思います。

Question 7

松下先生:

NMOSDは多発性硬化症に比べるとリスクファクターがあまりわかっていないので、環境への注意などもわかっているものは多くはありません。逆に、皆さんは日常生活でどのようなことに気をつけているか教えていただけますか。

坂井田さん:

疲れやすくなることが多いので、とにかく休息や睡眠時間をたくさんとることを大切にしています。また、私の場合、日光に当たると翌日に目がとても痛くなるので、日射しが強いときはサングラスをかけるようにしています。あとは、湿気に弱く、湿度が高いと過呼吸になってしまうことがあるので、湿度には気をつけています。

渡辺さん:

私は、病気のことをあまり気にしないようにするのが大事だと思います。心配性という性格もあるのですが、気にしすぎるとよけいに落ち込んでしまうので。あとは、やはり疲れたときは休むことが大切です。疲れて調子の悪いときは、無理せずに勤め先に相談して休ませてもらうようにしています。また、外出時や会社のなかでは感染症に気をつけてマスクを着けています。それから、何かあったときにはすぐに主治医に連絡を取ることができれば普通に生活できると思っています。

坂井田さん:

いま渡辺さんがおっしゃったことは、この病気と付き合っていく上で、とても大切なことだと思っています。周りの助けが必要ですし、自分の状態を言語化して説明することは重要です。それに、「これが再発です」というまでの道のりがわからないので、主治医と密にコンタクトをとって、薬が合わなかったら変えてほしいと言えるくらいの意思疎通が必要だと思います。

松下先生:

病気に限らずですが、あまり気にしすぎて自分の人生の可能性を狭めてしまわないようにしてほしいと思います。楽観的にやっていくことも大事かと思います。

坂井田さん:

定期検診で、たとえば6ヵ月ごとにMRIを撮ったほうがいいのですか?

松下先生:

医師の方針によりますが、私自身はMRIを定期的に撮影する意味はあまりないと思っています。多発性硬化症の場合は活動性を見るためにMRI検査しますが、NMOSDは病状を判断するマーカーにはなりません。もちろん急変した際は撮りますが、定期的にMRI検査をする必要はないでしょう。

Question eight, 再発予防のためにどんなことに気をつければいい?


再発を予防するためには、薬による治療を継続すること以外に、どのようなことに気をつければよいですか?


いちばん大切なのは感染症にかからないようにすることです。感染症などがきっかけで血液脳関門が破綻しやすくなり、NMOSDが再発することがあります。感染予防というのは、治療薬による副作用の面でも大事ですが、再発予防の面でも大事なことになります。

Question 8

坂井田さん:

ワクチンはNMOSDの再発を誘発するという話を聞きますが?

松下先生:

証拠はありませんが、たしかにワクチンが再発のリスクになることは否定できません。ワクチンで再発する確率と感染症にかかってNMOSDが悪化する確率をてんびんにかけてリスクベネフィットを考えると、NMOSDの悪化を防ぐためにワクチン接種は推奨されています。また、治療薬によってはワクチン接種の効果に影響することもありますので注意が必要です。

坂井田さん:

再発予防の大切さはもちろんわかりますが、再発の“予兆”を見つける方法はないのでしょうか?定期的に受診して検査を受けていても、再発を疑わせる数値が出ない人もいて、症状が悪化して動けないような状態になって「再発です」と言われてしまいます。患者はみんな、それまでの期間がもどかしいと感じています。

松下先生:

残念ながら、いまのところ再発を予知できるマーカーはありません。

渡辺さん:

症状から再発の予兆をつかむことはできないのですか?主治医に連絡するタイミングがわからずに困ることがあります。これは連絡したほうがいいのかな、と思っても、数日すると症状が落ち着くこともありますし。

松下先生:

脊髄炎を起こすとはっきりした症状が出ることが多いのですが、たとえば、しびれや痛みといった症状は変動が大きく、その症状が出たから再発とするのか、それとも症状の変動の範囲内なのかという判断はなかなか難しいのです。ただ、症状として、しゃっくりや吐き気が続く場合は注意が必要です。この2つはNMOSDの再発でわりと特徴的な症状です。しゃっくりが2〜3日続くようなら主治医に相談してほしいと思います。

渡辺さん:

再発は1年以内が多いというお話でしたが、再発する可能性というのは何年くらいあるのですか?

松下先生:

抗AQP4抗体が陽性の人の92.7%が再発すると報告されています4)。ただし、いつ再発するかはわかりません。7〜8年経ってから再発した方もいます。

坂井田さん:

抗体が存在している限りは治療を続けなければならないということですか?

松下先生:

そうですね。生物学的製剤は再発を予防するだけではなく、再発したとしても症状が軽く済むという効果もあると思います。現在では治療薬を選択できる状況になっているので、最初の段階から生物学的製剤を使用してステロイド薬をできるだけ減らすような治療をスタートさせるのがよいのではないかと思っています。

渡辺さん:

10年前を思えば、考えられないような進歩ですね。

最後に

渡辺さん:

NMOSDの情報はいろいろな方法で探すことができますが、やはり難しいので自分だけでは理解できないことがあります。疑問に思うことを聞きたいけれど、聞いていいのかなと思っている人もきっと多いのではないかと思います。

松下先生:

NMOSDという病気は簡単ではないので、説明を受ける時間をしっかりとることが必要です。とくにNMOSDの診断がついたときなどには、説明を受ける機会もあると思いますので、ためらわずに疑問に思うことを聞いてほしいと思います。

坂井田さん:

今回、このように先生とお話しして、これまでNMOSDについて疑問に思っていたことが腑に落ちました。私たち2人だけの場ではなく、仲間にも聞いてほしいと思いました。

本日は、ありがとうございました。


用語

  1. アストロサイト:神経細胞の生存や機能を支える。血管から取りこんだ栄養や水分を神経に与え、水を通過させる働きがある。
  2. アクアポリン4 (AQP4):水の通り道になるタンパク質。脳や脊髄内の血管の周囲やアストロサイトの足突起にたくさん存在する。
  3. 補体:体内に侵入した細菌などの外敵を攻撃し、身体を守る免疫システムのひとつ。抗AQP4抗体がAQP4に結合すると、この補体が活性化してアストロサイトを破壊する。
  4. 血液脳関門 (blood brain barrier:BBB):脳の血管と脳の組織との物質の行き来を制限するバリアの役割を果たす器官。中枢神経系の機能を正常に保つための重要な働きを担う。
  5. 最後野:脳の最後野は延髄背側の第4脳室のいちばん底にある器官で、NMOSDに特徴的な病変部位。嘔気 (吐き気)

    吃逆 (しゃっくり)
    にかかわる。
  6. 脊髄後角:身体の各部が感じ取った触覚や痛み、温度などの信号を末梢神経から受け取って脊髄に伝達する部位。
  7. 脊髄前角:脳や脊髄からの信号を筋肉に伝える神経細胞。
  8. IL-6 (インターロイキン-6):炎症に伴ってさまざまな細胞から産生される物質で、炎症反応の原因となる。
  9. B細胞:骨髄にある造血細胞からつくられる白血球の一種。ウイルスや細菌などの抗原が侵入してきたときに、それが危険なものかどうか判断する免疫細胞。

文献

  • 日本神経学会 監、「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン」作成委員会 編: 多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023, p.7, 196-197, 2023.
    [利益相反:本書籍の著者にアレクシオンファーマ合同会社より講演料、研究助成金を受領している者が含まれる。]
  • Zandonά ME, et al. Mult Scler 2014; 20: 1908-1911.
  • Akaishi T, et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm 2020; 7: e640.
  • Jarius S, et al. J Neuroinflammation 2012; 9: 14.